1.はじめに
予防と健康管理ブロックの2回の講義において、うつ病に関するビデオと、アスベストに関するビデオを見た。私は、最近、働き盛りの人々の間で、うつ病が急増しているということに、大変関心があった。厚生労働省のまとめによると、仕事上のストレスからうつ病などの「心の病気」を抱えて2006年度に労災認定された人は、前年度比61%増の205人に上り、過去最多となったそうだ。このうち自殺者は、同57%増の66人(1人は未遂)と、やはり過去最多であった。長時間労働による脳や心臓の病気で労災認定された人も最多で、働く人たちが心身共に疲弊している実態が浮かび上がった。働き方の見直しが言われる中、労働者を取り巻く長時間労働が一向に改善されない状況が改めて浮き彫りになった。厚労省によると、心の病気による労災認定者数は、前年度に比べ78人の増加で、02年度のほぼ2倍であり、業種別では、製造業(38人)、医療・福祉(27人)、運輸業、卸小売業(各20人)が多かったそうだ。
また、うつ病など精神疾患の認定を受けた205人の内訳は、30代が83人と際だって多く、次いで20代が38人、40代36人、50代33人であり、20、30代で約6割を占めた。働き盛りの人々のうつ病の急増は、かなり深刻な問題となっているということを改めて実感した。そして、この問題について、もっと深く調べたいと思い、今回は「うつ病」と「労働」というキーワードを選択し、これらのキーワードが含まれる文献を検索し、論文の内容とビデオで見たことを関連付けて、レポートを作成した。
2.選んだキーワード
depression ,labor
3.選んだ論文の内容の概略
うつは、認識的で、社会的で、身体的な機能に、重大な影響を及ぼしうる。アメリカ合衆国は、うつの結果として、毎年直接、健康診断や患者の死亡や生産性の経費で300億ドルから440億ドル損失している。さらに調査は、うつは仕事障害と無力さと失われた仕事日に関連があって、仕事の生産性を減らしたことを示している。
多くの効果的治療や実験は、うつ病の徴候を緩めるために利用できる、しかし、大うつ病のおよそ20パーセントの人だけしか十分に治療されない。うつ病治療は、費用に対して効果的であり、うつ病の人を雇用し続けることができ、すでに働いているうつ病の人の生産性を改善することも示された。さらに、うつ病の労働者を扱うことによって節約される費用の総額がうつ病の治療費を十二分に補うほどに、雇い主に利益をもたらすと仮定されている。
5?25パーセントのアメリカ人が彼らの生涯の中でうつを経験しており、うつを経験することがうつ病の人々の間で働く能力に大きな影響を及ぼしそうであると想定すれば、仕事に残る、あるいは戻る際に個人を援助することは、よい仕事を実行できるだけでなく、社会にとっても有利であると考えられる。しかしなから、働いているうつ病患者の特徴と、働いていないうつ病患者の特徴についてや、うつ病患者の作業と関連する要因については、まだあまり知られていない。
従って、この断面研究において、働く人と働いていない人の社会人口統計学的な特徴、健康面の特徴、機能面の特徴、そして無力さにおける特徴を調べるために、大きな全国的な代表サンプルを利用した。研究の目的は、働くうつ病の人と働いてないうつ病の人を比較し、うつ病の人の作業と関係している要因を確認することである。
調査の結果、ほぼ、大うつ病を報告した人の半分は、働いていることが分かった。働いてないうつ状態の人と比較して、働いているうつ状態の人は若い人が多く、女性よりも男性が多く、よりよい教育を受けており、一人暮らしをしており、より高い収入を得て、都市あるいは郊外の場所に住んでいることが多かった。また、社会人口統計学的要因をコントロールしてみると、健康と機能的な特徴はうつ状態の人の作業と強く関係していた。
現在では、仕事の能力や仕事場での生産性を向上させるのに、抑うつ性の徴候を減らして機能と仕事を改善するうつ病治療が有効であることが、注目されてきている。働くことができない状態で、あるいは、生産性が減少した状態で仕事に取り組み続けるうつ病の人の特徴を理解することは、健康管理への接近とうつ病治療への固執を改善する計画の開発を援助するかもしれない。
この研究の結果は、アメリカの人口において、うつ状態の人のかなりの数を確かめることによって、うつによる社会の負担を強調するのを助ける。健康管理政策立案者は、抑うつ性の徴候の改善のために、うつ病治療に多少の費用を投資しても、それによってもたらされる仕事の能力の向上や、仕事の生産性の向上に気づく必要がある。雇い主は、うつによる長期欠席、短期あるいは長期にわたる無力感によって減少する仕事の能率の低下による損害、そしてそれによってもたらされる生産性の低下によって、仕事場に重大な影響をもたらすことがありうることに気づく必要がある。援助プログラムと健康保険を通して、雇い主はうつになっている人を特定する計画を作成して、うつになった人が効果的治療を受けることを確実としたいと思うかもしれない。働くうつ状態の人の特徴のより良い理解と、労働力の存続を関連づける要因は、健康管理の従業員援助プログラム、障害プログラムと処置プログラムを形づくるのを助ける。そのような干渉は、労働者と同様、雇い主のためにもなる。
4.考察
今回読んだ論文には、働いているうつ状態の人は若い人が多く、女性よりも男性が多く、よりよい教育を受けており、一人暮らしをしており、より高い収入を得て、都市あるいは郊外の場所に住んでいることが多いと書かれてあった。
確かに最近、働き盛りの人々、つまり20〜30代の若手社員で「うつ状態」に陥る人たちが急増しているという。これまでは40代以上の管理職世代のうつ状態が顕著だったが、ここに来て若手社員まで症状が広がっているようである。これは、経済環境の悪化などによって近年、企業のリストラ、合理化、統廃合などが進んだことによるようだ。このような環境の変化によって、中間管理職の不足や多忙からマネジメントの不在が目立つようになり、上司が部下に対して、ていねいに説明したり、接したりする余裕を失い、その結果、下で働く社員たちは仕事の中身や自分の役割がわからない、先が見えない、何も権限がないといった状態に陥って、上司への不信感がふくらみ、抑うつ状態になっていくのではないかと考えられる。女性よりも男性が多いのは、家族を養っていかねばならないというプレッシャーによるのではないかと考えられる。そして、よい教育を受けていることも、よりよい結果を出そうとしてプレッシャーになっているのかもしれないと思う。
また、仕事の失敗に対する恐怖も、うつ状態になる大きな原因である。もし失敗すれば、切り捨てられるかもしれない、使い捨てられるかもしれないという不安が生まれることで、うつ状態が悪化するのである。成果主義も、うつ状態を生み出す原因になりうると考えられる。この場合、仕事の成果をどうしても他人と比べられるので、同僚との助け合いやコミュニケーションは減り、誰にも相談できず、不安や不満を溜め込むようになってしまう。しかし、従来型の年功序列制度がよいわけではないと思う。年功序列は、努力に対する正当な報酬が得られないので、かなりストレスを招く就業形態である。かといって、自分の部下が年上というのもやりづらくてストレスが溜まるだろう。大変難しい問題である。
そして、うつ状態の増加傾向に危機感を感じ、その対策に乗り出す企業は年々増えている。うつ状態やうつ病になると、意欲や仕事に取り組む能力が低下するので、企業としては生産性が低下することになる。また、ミスやエラーが多くなるので、クレームも増えてきてしまう。また、過労からうつ病になり、自殺にまで至ってしまうと、労災の請求が行われたり、安全配慮義務違反ということで、訴えられるケースも出てくる。このようなことから、リスクマネジメントの一環としても、うつ病対策が必要になってきているわけである。
従業員の心の健康管理をする専属スタッフが、毎日のように工場内を巡回している企業もあるようだ。過労になっている従業員はいないか、職場の人間関係はうまくいっているかなどについて、スタッフは聞き取り調査をし、必要に応じてカウンセラーや病院への橋渡しをするのだ。しかし、職場の悩みの一番いいサポーターは、やはり職場の上司や同僚であると思う。実際に、課長に昇進したばかりの人たちを対象にした「リスナー教育」という社内研修が行っている企業もあるそうである。1か月に1回とか2週間に1回しか来ない精神科医といった専門家よりも、いつでも身近にいる素人に相談したほうがよいこともあるだろうと私も考える。このように、様々な企業でうつ病に対する取り組みが始まっているのは、よいことであると思った。
5.まとめ
これから医師を目指していくうえで、うつ病の患者さんと接する機会は何度もあるであろうが、その際に心がけるべきことは、励ましてあげるのではなく、じっくり話を聴いてあげるということであると私は考える。励ましは、うつ病の人にとってプレッシャーになってしまい、逆効果になるかもしれない。患者さんは、話を聴いてもらえることで、気持ちも楽になっていくであろうし、客観的に物事が見えるようになるであろうから、いろいろなことに気づきやすくなると思う。また、前向きな方向へ引っ張っていってあげようとばかりするのではなく、一緒に沈んで、うつからの脱出方法を一緒に探すことも、必要であると思う。つまり、同じ目線で話を聞いてあげることが、大事であると考えている。
今回、うつと労働について、論文を読み、じっくり考えることで、とても勉強になった。これからも、心の病について考え、社会の出来事に目を向け、患者さんのつらさや苦しさを理解してあげられる医者を目指して頑張りたいと思う。